愛犬を苦しめる頸部椎間板ヘルニアの痛み | 対処法と長期的ケア
2025/01/08
頸部椎間板ヘルニアは、首の骨(頸椎)を通る神経が圧迫される病気で、その原因によってハンセンⅠ型とハンセンⅡ型に分かれます。以前の記事でもお伝えしたように、犬では首に強い痛みが現れるという特徴があります。脊髄は中枢神経の一部で、痛みを感じ取ったり運動を制御したりする神経がたくさん集まってできています。
今回は、犬の頸部椎間板ヘルニアによる痛みでお悩みの飼い主様に向けて、その対処法や長期的なケアの方法をご紹介します。
■目次
1.獣医師による医療的アプローチ
2.ご家庭でできる即効性のある痛み緩和ケア
3.効果的な物理療法とリハビリテーション
4.痛みの緩和をサポートする食事管理とサプリメント
5.愛犬のストレス軽減と精神的サポート
6.痛みの程度を正確に把握する方法
7.まとめ
獣医師による医療的アプローチ
動物病院では、痛みを和らげるための薬物療法を行います。その際、プレガバリンという神経の障害による痛みを抑えるお薬を中心に使用します。
また、レーザー治療や電気刺激療法といった選択肢もあります。
ご家庭でできる即効性のある痛み緩和ケア
痛みがあるときには、快適な休息環境を整えてあげることが重要になります。低反発マットレスを用いることで、体への圧力を分散し、痛みを和らげることができます。また、安心できるように飼い主様の匂いがついた毛布を敷く、人や物の動きが少ない静かな場所に寝床を設置する、といった工夫を施すとよいでしょう。
さらに、これ以上脊髄を圧迫しないためには、抱き方や体位の保持がカギになります。脇や腰を支えるのではなく、おなかと胸の下に手をまわして首や背中を水平に保ち、優しく包み込むように支えましょう。
それ以外に、温熱療法と冷却療法を適切に利用することも痛みのケアにつながります。どちらも炎症や痛みの緩和につながりますが、前者は慢性的な痛みに、後者は急性期の痛みに適応されることが一般的です。
効果的な物理療法とリハビリテーション
物理療法は、電気や赤外線などのエネルギーを用いて痛みや炎症を軽減する治療法で、マッサージやストレッチと併用することで効果が高まります。ホームケアとして、特にマッサージやストレッチが重要ですが、適切な方法で行わないと逆に体に負担をかけてしまう可能性があります。
マッサージは患部の痛みを和らげるだけでなく、筋肉のこわばりをなくしリラックスさせる役割もあるので、全身にわたって実施します。また、ストレッチは、主に関節の可動域を広げる効果が期待できます。愛犬がリラックスしている状態のとき、肩や肘、手首などの関節をゆっくりと曲げ伸ばしするとよいでしょう。
さらに、水中療法(ハイドロセラピー)もリハビリとして利用できます。水の浮力によって体への負担を軽減しながら、全身の筋肉を使った運動ができるため、体力を維持しながらリハビリを進めるのに適しています。
ここで述べた方法は、痛みのある場合や症状が強い場合にはそれらを悪化させる危険性があるため、行う場合には必ず獣医師の指導の下で行うようにしてください。
痛みの緩和をサポートする食事管理とサプリメント
痛みを和らげるには、抗炎症作用がある食材やサプリメントがよいといわれています。抗炎症作用を持つオメガ3脂肪酸やDHA、EPAなどを含むサプリメントがよく使用されますが、製品によって成分の含有量が異なるため、与える前に獣医師に相談することが重要です。
また、体重管理も欠かせません。体重が増えると関節や脊髄への負担が増し、痛みが悪化する可能性があるため、カロリー管理には注意が必要です。食事量を調整し、満腹感を得られるフードに変更したり、低カロリーのおやつを選ぶ、フードを水でふやかすなどの工夫も役立ちます。これにより、無理なく体重を管理し、リハビリをスムーズに進めることができます。
愛犬のストレス軽減と精神的サポート
頸部の痛みは犬にとって大きなストレスの原因となります。そのため、痛みを和らげるだけでなく、精神的なサポートも必要です。
静かで落ち着いた環境をつくるために、クレートに毛布を被せて寝床にする、同居犬やお子様などがあまり入らない部屋にクレートを置く、といったことに気をつけてみましょう。とはいえ完全に隔離して放置するのではなく、休息の邪魔にならない程度に様子をみる必要があります。
さらに、犬は社会性を持つ動物であるため、飼い主様との触れ合いや安心感を得ることが回復をサポートする要素になります。日常の中で愛犬と適度にコミュニケーションを取り、心のケアを忘れないようにしましょう。
痛みの程度を正確に把握する方法
犬は「痛い!」と自分で表現できないため、さまざまな行動の変化によって痛みを訴えます。たとえば、元気や食欲がない、無気力、不安そう、うめき声をあげる、座り込む、呼吸が速くなる、といった様子が観察されます。
こうした変化は抽象的で、なにか不調があることには気づけても、どのくらい痛みを感じているのかはわかりません。こうした抽象的な行動から痛みの程度を把握するために、「痛みスケール」と呼ばれる評価方法があり、各項目に当てはまるかをチェックすることで、痛みの程度を1~4で表すことができます。
愛犬が痛みを感じているときには動物病院を受診する必要がありますが、その際には次の情報を獣医師に伝えると、より診断がスムーズになります。
・いつから痛みが現れたか
・どこが痛そうなのか
・直近で体調不良はないか
・過去に手術などの治療歴はないか
あわせて、動画を撮影していただくと、口頭ではわかりにくい情報も正確に伝えることができます。
まとめ
頸部椎間板ヘルニアは、強い痛みを伴う神経の病気です。痛みを和らげる方法は1つだけではなく、複数の方法を総合的に組み合わせることで、愛犬のQOL(生活の質)を向上させることができます。その組み合わせは犬の状態や痛みの程度によって千差万別ですので、まずは獣医師と連携をとって、最適なアプローチにつなげることが重要になります。また、治療がうまくいかないと痛みはどんどん強くなっていく可能性があります。そのため、同じ対策をずっと続けるのではなく、定期的に動物病院で状態をチェックしながら、臨機応変に継続することがポイントになります。
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