犬の脊髄損傷とは?手術で改善が期待できるケースと難しいケース

「急に後ろ足が動かなくなった」
「足を引きずっている」
「立ち上がろうとしても、うまく立てない」

愛犬にこのような変化が見られると、「何が起きているのだろう」「また上手に歩けるようになるのだろうか」と、不安になる飼い主様も多いのではないでしょうか。

こうした症状の原因のひとつが、脊髄損傷です。脊髄は、脳と体をつなぎ、足を動かす指令や痛みなどの感覚を伝える重要な神経です。

脊髄が傷ついたり圧迫されたりすると、ふらつきや麻痺などさまざまな神経症状が現れます。原因や重症度によっては手術によって改善が期待できる一方で、神経の損傷が重い場合には十分な回復が難しいこともあります。

今回は、犬の脊髄損傷の原因や症状、手術が検討されるケース、回復の見込みを左右するポイントについて解説します。

目次

犬の脊髄損傷とは?

脊髄は、背骨の中を通る太い神経の束です。脳から体へ運動の指令を送り、体で感じた痛みや触覚などの情報を脳へ伝える役割を担っています。

そのため、脊髄が圧迫されたり傷ついたりすると、脳と体の情報がうまく伝わらなくなり、次のような症状が現れることがあります。

足元がふらつく
足を引きずって歩く
足先が裏返ったまま戻りにくい
自力で立ち上がれない
首や背中を痛がる
排尿や排便がうまくできない

脊髄損傷というと、足がまったく動かなくなる状態を想像する方もいるかもしれません。しかし、初期には歩けていても、つまずきやすくなる、爪を擦って歩くなど、小さな変化から始まることもあります。

そのため、「まだ歩けているから大丈夫」と自己判断せず、歩き方の変化や痛み、排尿の異常などが見られた場合は、早めに診察を受けることが大切です。

犬の脊髄損傷を引き起こす主な原因

脊髄損傷は一つの病気ではなく、さまざまな病気や外傷によって脊髄に障害が起きた状態を指します。

〈椎間板ヘルニア〉
犬の脊髄損傷で最も多く見られる原因の一つが椎間板ヘルニアです。

背骨の間にある椎間板が飛び出して脊髄を圧迫すると、痛みやふらつき、麻痺などの神経症状が表れます。

脊髄への圧迫が強い場合や、神経症状が進行している場合には、飛び出した椎間板物質を取り除く手術が検討されます。

椎間板ヘルニアについてより詳しく知りたい方はこちら

〈落下や交通事故などの外傷〉
高い場所からの落下や交通事故などでは、背骨の骨折や脱臼によって脊髄が損傷することがあります。

このような場合は、神経症状だけでなく胸やお腹などにけがをしていることもあるため、全身状態を含めた慎重な評価が必要です。

〈炎症・血流異常・腫瘍など〉
脊髄に炎症が起こる病気や血流の異常、脊髄や背骨の周囲にできた腫瘍、生まれつきの背骨の異常でも神経症状が現れることがあります。

これらは必ずしも脊髄を強く圧迫しているとは限らないため、手術ではなく、内科治療やリハビリが中心となるケースもあります。

手術で改善が期待できるのはどのようなケース?

脊髄損傷に対する手術は、傷ついた神経そのものを元どおりにする治療ではありません。

主な目的は、飛び出した椎間板物質や骨などによる脊髄への圧迫を取り除き、それ以上神経の障害が進まないようにすることです。

特に椎間板ヘルニアでは、脊髄への圧迫が強い場合や、麻痺が進行している場合に手術が検討されます。

回復の見込みや治療方針を判断する際には、次のような点を総合的に評価します。

・麻痺がどの程度まで進んでいるか
・深部痛覚が保たれているか
・症状が現れてからどのくらい時間が経過しているか
・画像検査で確認した脊髄の状態
・年齢や持病など全身状態

椎間板ヘルニアでは、神経症状の程度をグレードに分けて評価することがあります。歩ける状態なのか、自力で立てない状態なのか、深部痛覚が残っているのかによって、治療の緊急性や予後は大きく変わります。

なかでも重要な指標の一つが深部痛覚です。

深部痛覚とは、足先などに加わった強い刺激を脳で「痛い」と認識できているかを確認する検査です。単に足を引っ込める反射ではなく、刺激に対して振り向く、鳴くなど、犬が痛みを認識している反応を獣医師が慎重に評価します。

深部痛覚が保たれている場合は、重い麻痺があっても改善が期待できることがあります。ただし、予後は脊髄の損傷の程度や症状が続いた時間など、さまざまな要素を総合して判断するため、深部痛覚だけで回復の見込みを決められるわけではありません。

手術をしても回復が難しいケース

脊髄への圧迫を取り除くことができても、神経そのものが強く傷ついている場合には、十分な機能の回復が難しいことがあります。

回復が難しくなる可能性があるのは、次のようなケースです。

・神経の損傷が重い
・深部痛覚が失われている
・重い麻痺が現れてから時間が経過している
・脊髄そのものに広い損傷がある
・外傷や腫瘍など、圧迫の解除だけでは改善しにくい原因がある

ただし、これらに当てはまるからといって治療に意味がないわけではありません。回復の見込みは、神経学的検査や画像検査などを踏まえて総合的に判断します。

また、治療の目的は歩けるようになることだけではありません。痛みを和らげることや症状の進行を防ぐこと、排尿管理やリハビリ、生活環境の工夫によって、その子らしい生活をできるだけ長く続けられるように支えていくことも大切な治療の一つです。

動物病院で行う検査

犬の後ろ足が動かないからといって、必ずしも脊髄が原因とは限りません。骨や関節の病気、末梢神経の異常、全身状態の悪化などでも、似たような症状が現れることがあります

そのため動物病院では、まず身体検査で全身状態や痛みのある場所を確認します。そのうえで神経学的検査整形外科的検査を行い、神経の異常なのか、骨や関節の異常なのかを見極めていきます。

神経学的検査についてより詳しく知りたい方はこちら

神経学的検査では、足先を元の向きに戻せるか、反射は正常か、痛みを感じる反応が残っているかなどを確認し、異常が起きている場所を推測します。

その結果をもとに、必要に応じてレントゲン検査、CT検査、MRI検査を組み合わせて原因を詳しく調べます。当院ではCT検査を院内で実施しており、MRIによる詳しい検査が必要と判断した場合には、連携する外部施設をご案内します。

MRI・CT検査でわかることについてより詳しく知りたい方はこちら

「少し歩き方がおかしい」「立ち上がりにくそう」といった初期の変化でも、お気軽にご相談ください。また、他院で治療を受けているものの、今後の治療方針について迷われている場合にも、これまでの検査結果や経過を確認しながら、一緒に今後の治療方針を考えることが可能です。

当院は予約制ではありません。急なふらつきや麻痺、自力で立てないなどの症状が見られた場合は、無理に歩かせず、できるだけ早めにご来院ください。

まとめ

犬の脊髄損傷は、脊髄が圧迫されたり傷ついたりすることで、足の動きや感覚、排尿などに異常が現れる状態です。

原因には椎間板ヘルニアや外傷、炎症、血流の異常、腫瘍などさまざまなものがあり、原因や神経障害の程度によって治療方法は異なります。

手術によって改善が期待できるケースがある一方で、神経の損傷が重い場合には十分な回復が難しいこともあります。また、回復の見込みは原因や重症度、治療開始までの時間などによって大きく異なり、一律に判断できるものではありません。

「まだ少し歩けているから」と様子を見ている間に症状が進行してしまう病気もあります。愛犬の歩き方や足の動きに普段と違う変化が見られたときは、できるだけ早めに動物病院へご相談ください。

当院では2026年6月現在、全国で25名のみが認定を受けている「日本小動物外科専門医」の資格を持つ院長を中心として、飼い主様に寄り添ったやさしい医療をご提供できるよう日々研鑽を続けております。
脊髄損傷についてお困りの際は、当院へご相談ください。

■日本小動物外科専門医の資格についてはこちらをご参照ください

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監修:とがさき動物病院 院長 灰井康佑|最終更新:2026-08-04

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