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【獣医師監修】犬の前庭疾患┃めまい・ふらつきの原因と専門的治療

2025/04/10

愛犬がよろめいたりふらついたりしているときは、筋肉や骨、関節などの影響ではなく、前庭疾患が関係しているかもしれません。前庭系は、内耳や中枢神経の一部にあり、バランス感覚や平衡感覚をコントロールする役割があります。飼い主様は、犬の前庭疾患が決して珍しい病気ではないこと、適切な診断と治療によって多くのケースで改善できることを知っておくことが重要です。

今回は主な原因や症状とともに、専門的な診断・治療法やケア方法について解説します。

■目次
1.犬の前庭疾患にみられる主な症状と行動変化
2.前庭疾患の種類と主な原因- 末梢性と中枢性の違い
3.動物病院での診断プロセスと検査方法
4.前庭疾患の治療アプローチ – 原因別の最適な対処法
5.自宅でのケアとサポート – 回復期の愛犬をサポートする方法
6.予後と長期的な管理 – 再発予防と定期的な健康管理
7.まとめ – 専門家への相談のタイミングと選び方

 

犬の前庭疾患にみられる主な症状と行動変化

前庭疾患では、以下のような特有の症状が現れます。

首をかしげるように頭が傾く(斜頚)
円を描くようにぐるぐると歩く(旋回運動)
ふらつきや転倒
眼球が無意識に揺れる(眼振)
吐き気
食欲不振

これらの症状は犬種や年齢、原因によって異なります。特にふらつきや歩行異常は飼い主様が気づきやすい症状ですが、脳腫瘍や脳炎など他の病気との見分けが難しいため、自己判断せず獣医師の診察を受けましょう。

 

前庭疾患の種類と主な原因- 末梢性と中枢性の違い

前提疾患は障害される場所によって、「末梢性」と「中枢性」の2種類に分けられます。

〈末梢性前庭疾患〉

主な原因は内耳炎・中耳炎など耳に関連する病気です。耳の感染症や外傷によって起こります。

〈中枢性前庭疾患〉

特発性前庭疾患(老齢性前庭疾患)、脳の腫瘍、脳炎、血管障害、神経疾患などが原因です。

脳の腫瘍についてはこちらをご覧ください
脳炎についてはこちらをご覧ください

なお、特に犬に多く見られるのが「特発性前庭疾患(老齢性前庭疾患)」です。これは明確な原因がわからないまま高齢犬に突然発症することがあり、見た目のインパクトに反して、時間経過とともに回復することが多い疾患です。

 

動物病院での診断プロセスと検査方法

前庭疾患の疑いがある場合、以下のような検査を行います。

・神経学的検査:四肢の反射や顔面神経の状態などを確認し、末梢性か中枢性かを推定します。
・耳の検査:耳鏡を用いて耳道や鼓膜に異常がないかを確認します。
・血液検査:炎症の有無や全身状態をチェックします。
・画像検査(レントゲン・CT・MRI):レントゲンでは大まかな病変がわかりますが、より詳しい情報を得るにはCTやMRIといった高度な検査機器が必要になります。

診察時には、「症状が現れた時期・経過」「症状の進行速度」「持病・服薬状況」などを獣医師にお伝えいただくと、診断にとても役立ちますので、ぜひご協力をお願いいたします。

 

前庭疾患の治療アプローチ – 原因別の最適な対処法

原因ごとの治療法は以下の通りです。

・内耳炎・中耳炎(末梢性)
一般的には外科的治療が必要になります。また、抗炎症薬や抗菌薬などを使った薬物療法を併用して、耳の状態を改善することが重要です。

・脳の腫瘍(中枢性)
脳腫瘍の治療には、放射線治療が適用されることが多く、あわせて抗がん剤や抗てんかん薬による薬物療法も選択肢となります。
ただし、腫瘍の部位や大きさ、進行度によっては、外科的切除が適応となるケースもあります。特に小脳に腫瘍ができている場合には、外科手術によるアプローチが検討されることがあります。

当院では、今後こうした脳腫瘍に対する外科治療にも積極的に取り組んでいく予定です。

・脳炎(中枢性)
免疫の異常によって起こることが多いので、免疫抑制剤が主に使用されます。

・特発性前庭疾患(末梢性)
現在のところ、効果的な治療法はわかっていないので、対症療法として制吐薬や抗不安薬などを与えることがあります。

このように、原因となる病気に対して効果的な治療を選択できるものもあれば、症状を管理することが目的になるものもあります。重症例ではリハビリテーションが必要になるケースもあるため、獣医師と連携しながら長期的にケアしていきましょう。

 

自宅でのケアとサポート – 回復期の愛犬をサポートする方法

動物病院で治療を受けた後の在宅ケアも、前庭疾患の回復には大切です。次のようなことに気をつけるとよいでしょう。

・安全な環境づくり
段差や滑りやすい床は転倒のリスクが高まるため、カーペットを敷くなどして負担を減らしましょう。

・食事や水の与え方
うまく嚥下できない場合は、高さを調節した食器スタンドを設置して介助したり、飲み込みやすい形状(流動食など)にしたりすることも検討しましょう。

・トイレのサポート
バランスを崩して失敗しがちな場合は、サークル全体にペットシーツを敷く、オムツを利用するなどして愛犬が動きやすい環境を整えましょう。

・リハビリテーション
自宅では様子をみながら、バランスを保つ、まっすぐ歩かせる、視線を固定させるといった動きを取り入れ、積極的にサポートしてあげましょう。回復してくればふらつきなどの症状は治まりますが、軽い症状が生涯にわたって残ってしまうこともあります。

・認知機能への配慮
特発性前庭疾患では回復過程で認知機能不全症候群(いわゆる犬の認知症)になってしまうこともあり、違ったサポートや治療が必要になります。症状が続く、あるいは別の症状が現れる場合には、再度獣医師に相談してみましょう。

 

予後と長期的な管理 – 再発予防と定期的な健康管理

前庭疾患の予後は原因や重症度によってさまざまです。

例えば、中耳炎や内耳炎といった耳の病気が原因の場合には、適切な治療を行うことで比較的良好な回復が期待できますが、脳炎や脳腫瘍などの中枢性前庭疾患では治療が難しく、再発や後遺症が生じやすい傾向があります。また、特発性前庭疾患の場合は症状が一時的に改善しても再発する可能性があるため、長期的に注意が必要です。

治療後もふらつきなどの症状が現れるようであれば、早めに獣医師に相談しましょう。さらに、回復が安定していても、定期的な健康診断や日々の観察を続けることが、愛犬のQOL(生活の質)を維持するうえで重要です。普段の生活では無理のない範囲で散歩を楽しませたり、室内で知育玩具を活用して脳や身体への刺激を与えたりするなど、愛犬とのコミュニケーションを積極的に図っていきましょう。

 

まとめ – 専門家への相談のタイミングと選び方

めまいやふらつき、頭の傾きなど、前庭疾患を疑わせる症状が見られた場合には、できるだけ早めに動物病院に相談しましょう。神経系や内耳の異常は、正確な診断と治療のために専門的な知識や高度な検査機器が必要となることが多くあります。

当院ではCTを完備しており、神経外科において豊富な経験を持つ獣医師が在籍しています。そのため、脳や神経に関わる複雑なケースであっても、専門的な視点から検査・診断を行い、一頭一頭に合わせた治療プランをご提案することが可能です。

原因を早期に特定し、適切な治療を進めることで、ご家族が少しでも早く元気を取り戻し、安心して日常を過ごせるようサポートいたします。気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。

当院では2023年9月現在、全国で17名のみが認定を受けている「日本小動物外科専門医」の資格を持つ院長を中心として、飼い主様に寄り添ったやさしい医療をご提供できるよう日々研鑽を続けております。
前庭疾患のことでお困りの際は、当院へご相談ください。

■日本小動物外科専門医の資格についてはこちらをご参照ください

埼玉県三郷市・吉川市・八潮市・越谷市で神経疾患・整形疾患の診療を受けるなら
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<参考文献>
Current definition, diagnosis, and treatment of canine and feline idiopathic vestibular syndrome – PMC

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