犬の椎間板ヘルニアについて
2023/06/23
ご家族のわんちゃんに『ふらつく』、『急に歩けなくなった』、『どこか痛そう』といった症状はありませんか。
このような症状がみられた場合、椎間板ヘルニアの疑いがあります。
椎間板ヘルニアは、犬種によってはとても身近な病気の一つです。
今回はこの病気の概論と原因から症状、治療までを解説します。
■椎間板ヘルニアとは
椎間板ヘルニアは、椎間板と呼ばれる骨と骨の間にあるクッションが飛び出し、神経を圧迫する病気です。
軟骨異栄養犬種と呼ばれるミニチュアダックスフンド、フレンチブルドック、ペキニーズ、トイプードル、ウェルシュコーギー、シーズーなどに多く、ヘルニアの場所(首or腰)や神経障害の程度により症状は様々です。
椎間板ヘルニアには、椎間板が脱出(飛び出る)するHansenⅠ型と、椎間板が突出(分厚くなって膨らむ)するHansenⅡ型があります。それぞれで起こりやすい犬種、年齢に違いがあります。
・HansenⅠ型椎間板ヘルニア
椎間板のクッションの中心にある「髄核(ずいかく)」と呼ばれる組織が飛び出て神経を圧迫します。髄核は通常水分を多く含み柔らかく、文字通りクッションの役割を担っています。さきほどの軟骨異栄養犬種では、この髄核が若いうちに固くなり(軟骨様変性)、飛び出やすくなります。
急に発症することが多く、さっきまで元気に走っていたのにギャンと鳴いてから立てなくなってしまった、といったこともよくあります。
・HansenⅡ型椎間板ヘルニア
さきほどの髄核を覆う「線維輪(せんいりん)」と呼ばれる組織が歳とともに固く分厚くなり(線維性変性)、神経を圧迫します。軟骨異栄養犬種ではない犬種でもみられます。変性がゆっくりと起こるため中齢以降での発症が一般的で、症状も慢性的に進行するケースが多く見られます。
■首のヘルニアと腰のヘルニアの違い
椎間板ヘルニアは主に首と腰で起きますが、ヘルニアを起こしている場所によって症状や治療法に違いがあります。
〇首のヘルニア(頚部椎間板ヘルニア)
小型犬では首の上の方、大型犬では下の方(付け根)での発症が多いとされています。症状は神経圧迫や損傷の程度により様々で、神経障害の重症度を以下のように分類することもあります。
Grade1:痛みのみで麻痺を伴わない
Grade2:立ったり歩いたりはできるが、力の入りが弱い
Grade3:立ったり歩いたりできず、寝たきりの状態
また、首のヘルニアはHansenⅠ型、Ⅱ型のどちらも起こる可能性があります。痛みの程度も様々ですが、激しい痛みを伴うことも少なくありません。普段大人しい子でも、痛みから飼い主様を嚙んでしまうこともありますのでご注意ください。
治療は薬による内科治療を行うこともありますが、なかなかすっきり治らず手術が必要なケースが多く見られます。
・首のヘルニアの手術法
頚部腹側減圧術(ベントラルスロット)
その名前の通り、ヘルニア部位の頚椎腹側にスロット(穴)を開け、そこからヘルニア物質を取り出す手術です。開けられるスロット幅は数mmであり、骨の正中から少しでもずれると大出血を起こす危険性があります。このため、主にヘルニアが脊髄の中央にある場合に適用されます。
片側椎弓切除術または背側椎弓切除術
ヘルニアが左右どちらかに寄っている場合は片側椎弓切除術、1か所ではなく多発している場合には背側椎弓切除術が主に適用されます。頚椎の片側を削りヘルニアを取り除くか、背側を削り圧迫された脊髄を開放します。
〇腰のヘルニア(胸腰部椎間板ヘルニア)
胸腰部椎間板ヘルニアの名前の通り、胸椎―腰椎移行部での発生が最も多いと言われています。これは、この部位の関節可動域(どのくらい動くか)が最も大きいことが原因とされています。
ヘルニアのタイプはさきほどのHansenⅠ、Ⅱ型に加え、明らかな圧迫がない「外傷性椎間板ヘルニア」、「非圧迫性椎間板ヘルニア」と呼ばれるようなタイプも最近報告されるようになりました。
症状はやはり神経障害の程度により様々で、その重症度を以下のように分類することが一般的です。
Grade1:痛みのみで麻痺を伴わない
Grade2:歩くことはできるが、力の入りが弱い
Grade3:歩くことができないが、力は入る
Grade4:歩くことができず、力も入らないが痛いのは分かる
Grade5:歩くことができず、痛みも感じない
全てのケースで必ずしも手術が必要なわけではなく、神経障害の程度によっては内科治療で良化することもあります。一般的にはGrade3より重度の場合に手術の適用となります。
・腰のヘルニアの手術法
片側椎弓切除術
腰椎の片側を削り脊髄を露出させヘルニアを取り除きます。骨のどの場所をどのくらい削るかによって片側椎弓切除術、小範囲片側椎弓切除術、椎弓根切除術、側方椎体切除術などと呼ばれます。
Grade5の患者さんの数パーセントが「進行性脊髄軟化症」に発展すると言われています。これは脊髄の出血性壊死であり、今のところ有効な予防法や治療法がありません。残念ながら発症した場合は痛みを伴い数日で亡くなってしまうことがほとんどです。確実な診断法もありませんが、当院では症状の経過や術中の脊髄所見からなるべく早期の診断を心がけています。また、発症したわんちゃんが痛みなくご家族と過ごせるよう最大限ケアいたします。
当院ではこれまでに数多くのヘルニア手術の実績があります。その経験を生かした診断、治療を行っておりますので、ご家族のわんちゃんにヘルニアを疑うような症状がおありでしたらいつでもご相談ください。
当院の院長が取得している日本小動物外科専門医の資格について知りたい方はこちらをご覧ください
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