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犬の筋力低下に潜む病気とは? 進行性疾患の見分け方と対処法

2026/03/02

〈この記事の要約〉

高齢犬が「歩けない」「立てない」「すぐ座り込む」ようになると、つい“年のせい”と思いがちです。けれど筋力低下の背景には、関節の痛みだけでなく、神経や筋肉の病気(進行性疾患)、ホルモンの異常、内臓の不調などが隠れていることもあります。原因によっては、早めに見つけて対処するほど、これからの生活のしやすさ(QOL)が大きく変わります。

受診の目安としては、たとえば次のような変化が続くときです。
・散歩を嫌がる/途中で座り込む、歩くのが極端に遅い
・段差や階段を避ける、立ち上がりに時間がかかる
・後ろ足がもつれる、ふらつく、転びやすい
・疲れやすさが目立つ、日ごとに悪化している

この記事では、筋力低下が起こる背景を整理したうえで、変性性脊髄症(DM)や重症筋無力症など、注意したい病気の特徴、そして診断後に生活の質(QOL)を支えるためのご家庭でのケアについて紹介します。症状そのものを「仕方ない」で終わらせず、今の状態に合った対応を考えるきっかけにしていただければと思います。

■目次
1.犬の「筋力低下」…どんな変化?
2.老化と進行性疾患は何が違う?
3.代表的な病気とその特徴
4.診断の流れ
5.治療方法
6.診断後のケアと家庭でできること
7.「治らない」としても、できることはたくさんある
8.まとめ

 

犬の「筋力低下」…どんな変化?

筋力が落ちてくると、日常生活の中で少しずつ行動が変化します。最初は「疲れやすくなった」程度に見えることもあるため、気づきにくい点が特徴です。
たとえば、次のような変化が現れ始めます。

散歩に行きたがらない、歩くのが遅くなる、途中で座り込む
階段や段差を嫌がる、上り下りに時間がかかる
後ろ足を引きずる、足がもつれる、踏ん張りがきかない
ふらつく、横に倒れこむ、方向転換がぎこちない
食事中に前足が震える、立っていられず座り込む

こうした変化が見られたときは、加齢だけでなく、神経・筋肉・内分泌(ホルモン)・関節など幅広い原因が隠れていることがあります。

 

老化と進行性疾患は何が違う?

老化でも筋力は少しずつ落ちますが、進行性疾患では「神経の伝達がうまくいかない」「筋肉そのものが弱る」といった背景があり、経過の見え方が異なります。

〈老化の場合〉

活動量が徐々に減り、筋力低下に加えて視力・聴力の変化、被毛の変化など、さまざまな変化が少しずつ現れます

〈進行性神経・筋疾患の場合〉

動きのぎこちなさが目立ちやすく、後ろ足から始まるふらつきや麻痺、疲れやすさの悪化などが段階的に進むことがあります。

ただし、見た目だけで断定することはできません。「年齢だから」と決めつけず、変化が続く場合は早めに動物病院を受診し、詳しい検査を受けることが重要です。

 

代表的な病気とその特徴

脳や筋肉に関わる進行性疾患には、次のようなものがあります。

変性性脊髄症(DM)
脊髄が数年単位でゆっくり変性していく病気です。遺伝が関係するといわれていて、治療法は見つかっていません。後ろ足のふらつきや足のもつれといった症状から始まり、最終的には寝たきりになって呼吸がうまくできなくなることもあります。
脊髄変性症(変性性脊髄症)についてより詳しく知りたい方はこちら

重症筋無力症
自己抗体(自分の身体にある細胞を攻撃してしまう抗体)によって、神経から筋肉への伝達がうまくいかなくなり、力が入りづらくなる病気です。散歩中に急に座り込む、疲れやすいといった症状のほか、食後すぐの吐き戻し(食道の動きが弱くなることが関係する場合があります)がみられることもあります。治療は内科療法が中心になります。

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
副腎から分泌されるコルチゾールが過剰になり、多飲多尿、腹部膨満、脱毛などとともに筋力低下がみられることがあります。とくに太もも周りが細くなった、立ち上がりにくい、といった変化が目立つこともあります。一般的にはお薬でコントロールを目指します。

GM1ガングリオシドーシス
生まれつき特定の酵素がないため、脳や神経の細胞にガングリオシドという脂質が蓄積してしまい、神経症状を引き起こす病気です。遺伝が関係していると考えられていて、日本では柴犬でよく認められます。子犬のころにはふらつきがみられる程度ですが、病気が進行するにつれて症状が悪化し、最終的には立てなくなってしまいます。根本的な治療法は見つかっていません。

進行性筋ジストロフィー
筋肉を構成するタンパク質の異常により筋力が低下していく遺伝性疾患です。進行の仕方は病型により異なり、根本的な治療法は見つかっていません。

※ここで挙げた病気以外にも、椎間板ヘルニア、関節疾患、貧血や心臓病など、筋力低下に見える症状の背景はさまざまです。気になる変化がある場合は、まず原因の整理が大切です。

椎間板ヘルニアについてより詳しく知りたい方はこちら

 

診断の流れ

筋力低下が疑われる場合、次のような検査を実施します。

・歩行チェック:歩き方や立ち上がり方、左右差などから手がかりを得ます。
・神経学的検査:反射や姿勢反応などを確認し、神経のどの部位に異常が疑われるかを評価します。
・血液検査:炎症、内臓機能、電解質などを確認し、全身状態を把握します。
・ホルモン検査:クッシング症候群などの内分泌疾患が疑われる場合に重要です。

神経学的検査でわかることについてより詳しく知りたい方はこちら

これらの検査で原因を特定できない場合や、より詳細な評価が必要な場合には、レントゲン、超音波検査、MRIなどの画像検査が追加で必要になるケースもあります。

MRI・CT検査でわかることについてより詳しく知りたい方はこちら

 

治療方法

治療は原因によって異なりますが、大きく3つに分けられます。

対症療法
進行を遅らせるためのリハビリ、栄養管理、運動療法などが中心になります。ほかの治療法と並行して行うこともあります。

内科療法
重症筋無力症やクッシング症候群などでは、薬で症状のコントロールを行います。

外科療法
腫瘍などが原因の場合は、手術も検討します。

「治療=薬や手術」と考えられがちですが、家庭でのケアや環境づくりが、日々の過ごしやすさを大きく左右します。

 

診断後のケアと家庭でできること

ご家庭でのサポートは、病気のタイプや進行度によって調整が必要です。

・環境整備
フローリングは滑りやすく、足腰に負担をかけてしまいます。滑りやすい床には、カーペットやジョイントマットを敷き、踏ん張れるような環境をつくりましょう。また、段差はできるだけ減らしましょう

・食事の補助
姿勢を保ちにくい場合は、食器台を使って首や前足への負担を軽くします必要に応じて体を支え、落ち着いて食べられる環境を整えましょう。

・運動制限とストレッチ
痛みがあるときは運動を控える必要がありますが、動かなさすぎると筋肉が落ちたり関節が硬くなったりします。適切な負荷の目安は状態によって異なるため、獣医師の指導のもと、ストレッチなどのケアを続けてみましょう

・補助器具の導入
介護用ハーネスや車椅子は「歩けなくなってから」ではなく「安全に動くため」に早めに検討することもあります。

 

「治らない」としても、できることはたくさんある

進行性疾患の中には、根本的な治療法が確立されていないものもあります。ただし、それは「何もできない」という意味ではありません。

痛みや不快感を減らし、転倒や床ずれなどの二次的なトラブルを防ぎ、できる動作を維持することは可能です。「できなくなったこと」ではなく「まだできること」に目を向け、愛情がこもったケアを続けてみませんか?

 

まとめ

筋力低下は「年のせい」と思われがちですが、実際には進行性疾患のサインとして現れていることもあります。大切なのは、早い段階で原因を整理し、その子に合った治療とケアにつなげることです。
当院では、在宅ケアやリハビリなどの実践的な方法をご提案し、愛犬のQOL維持をサポートしています。気になる様子があれば、お気軽にご相談ください。

当院では2023年9月現在、全国で17名のみが認定を受けている「日本小動物外科専門医」の資格を持つ院長を中心として、飼い主様に寄り添ったやさしい医療をご提供できるよう日々研鑽を続けております。
進行性疾患についてお困りの際は、当院へご相談ください。

■日本小動物外科専門医の資格についてはこちらをご参照ください

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監修:とがさき動物病院 院長 灰井康佑|最終更新:2026-03-02

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