犬の熱中症が引き起こす脳障害|重篤な症状の見分け方と応急処置
2025/08/08
犬にとって、夏は命に関わる季節です。特に近年の猛暑では、短時間の外出でも熱中症を起こしてしまうリスクが高まっています。飼い主様の中には、「お散歩のときにぐったりしたけど、お水を飲ませたら落ち着いたから、様子見で大丈夫かな?」と判断される飼い主様もいるかもしれません。
しかし、犬の熱中症は、見た目の症状が軽くても体内では深刻なダメージが進んでいることがあります。中には、脳に障害が及ぶほど重篤な状態に陥るケースもあり、ふらつきやけいれんといった異常が見られた際には、迷わず迅速に対処することが大切です。
今回は、熱中症が引き起こす「脳障害」に焦点を当て、その見分け方や応急処置、予防のポイントについてご紹介します。
■目次
1.犬の熱中症とは?
2.熱中症の症状
3.熱中症が原因で起こる「脳障害」とは
4.熱中症による脳障害のサイン
5.もしものときの応急処置
6.治療方法
7.そもそも熱中症を防ぐには?
8.まとめ
犬の熱中症とは?
犬は人間のように全身から汗をかいて体温を下げることができません。汗腺が限られた部位(肉球など)にしかないため、主な体温調節は「パンティング」に頼っています。
しかし、高温多湿の環境ではパンティングだけでは熱を十分に逃がすことができず、体温が急激に上昇してしまいます。これが、犬の熱中症の始まりです。
特に短頭種(フレンチ・ブルドッグ、パグ、シーズーなど)は、鼻や気道が短く放熱が苦手なため、わずかな時間でも危険に陥ることがあります。肥満の犬も脂肪が熱をこもらせるため、体温が下がりにくく、熱中症のリスクが非常に高くなります。さらに、子犬は体温調節機能が未発達で、シニア犬は体力や代謝が落ちているため、熱中症を発症しやすく重症化もしやすい傾向があります。
これらの犬種やライフステージの子は、通常以上に慎重な管理が必要です。
熱中症の症状
熱中症の初期には「少しハアハアしている」「暑そうにしている」といった軽い変化から、次第に以下のような症状が現れます。
・異常なほど速く、浅い呼吸
・舌や歯茎の色が赤紫〜黒っぽくなる
・座り込む・動きたがらない
・足取りがおぼつかない、ふらつく
この段階で適切な対応ができれば重症化は防げますが、見逃してしまうと体温がさらに上昇し、脳や内臓に深刻なダメージを与えます。
熱中症が原因で起こる「脳障害」とは
熱中症が進行すると、全身の血液循環が乱れ、特に熱に弱い脳の組織に大きな負荷がかかります。具体的には、以下のような状態が引き起こされます。
・脳への血流不足による低酸素状態
・脳内の血管の損傷による出血
・高体温による脳の浮腫や神経細胞の損傷
これは緊急治療を要する重篤な疾患であり、命に関わる危険な段階です。
熱中症による脳障害のサイン
次のような症状が見られる場合は、脳障害が疑われる緊急状態です。
・呼びかけに反応しない、意識がぼんやりしている
・ふらついて立てない
・頭が傾いている
・目がうつろで焦点が合っていない
・けいれんや手足の突っ張りがある
このような様子が見られたら、「様子を見て回復を待つ」レベルではなく、一刻も早く動物病院へ連絡し、すぐに搬送してください
もしものときの応急処置
お散歩などで外出していると、熱中症の症状がみられても搬送に時間を要してしまうケースもあります。そういったときには、受診までの間、以下のような応急処置を施しておきましょう。
1.風通しがいい日陰や冷房がきいた室内に移動する
2.首、脇の下、股の間など大きな血管が通る部分に冷たいタオルを当てる
3.扇風機やうちわで風を送り、体表の熱を逃がす
4.意識がある場合のみ、水を少量ずつ飲ませる(決して無理に与えない)
この対応はあくまでも緊急時の一時的なものです。愛犬の命を救うためには、必ずその後に動物病院での診断・治療を受けましょう。
治療方法
動物病院ではまず、体温を安全に下げる処置(点滴、冷却、酸素療法など)を迅速に実施します。その後、症状に応じて以下のような治療が行われます。
・脱水やショックがある場合:電解質(ミネラル)補正や循環維持のための点滴管理
・神経症状がある場合:脳浮腫(脳の腫れ)のコントロール(例:利尿薬の投与、脳圧管理)
・けいれん発作がある場合:抗けいれん薬の投与
・呼吸状態が悪く意識レベルが低い場合:入院管理やICUでの集中治療
そもそも熱中症を防ぐには?
熱中症は予防できる病気です。次のようなポイントを意識して、暑さから愛犬を守りましょう。
・散歩は早朝・夜間に限定し、地面の熱さにも注意する
・クーラーで室温を管理(25〜26℃目安)+サーキュレーターで空気を循環させる
・水はいつでも飲めるよう複数の場所に設置し、こまめに交換する
・車内やキャリーカートに愛犬を放置しない
まとめ
犬の熱中症は、思っている以上に危険な病気です。特に、ふらつきやけいれん、意識がぼんやりしているといった様子が見られるときは、脳に影響が出ている可能性もあります。「もう少し様子を見ようかな…」と迷っているうちに、症状が悪化してしまうことも少なくありません。
大切なのは、早めに気づいて、すぐに対処してあげることです。暑い季節は、いつもとちょっと違うサインにも目を向けて、愛犬の命を守る行動を心がけましょう。
当院では2023年9月現在、全国で17名のみが認定を受けている「日本小動物外科専門医」の資格を持つ院長を中心として、飼い主様に寄り添ったやさしい医療をご提供できるよう日々研鑽を続けております。
脳神経外科を始めとした各疾患についてお困りの際は、当院へご相談ください。
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