犬の尾側後頭部奇形症候群(COMS)とは┃小脳を圧迫する先天性疾患
2025/06/10
子犬は元気いっぱいで、病気とは縁がないように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、犬種によっては先天的に発症しやすい疾患があります。その1つが尾側後頭部奇形症候群(Caudal Occipital Malformation Syndrome:COMS)です。
この疾患は、後頭骨の奇形によって小脳が圧迫され、脳脊髄液の流れが障害されることにより、脊髄空洞症(Syringomyelia)などの二次的な病態を引き起こすことがあります。進行してもけいれん発作がみられることは少なく、多くは頚部痛、ひっかき反射、側弯、斜頸といった症状が主に問題となります。
今回は犬の尾側後頭部奇形症候群について、典型的な症状や原因だけでなく、かかりやすい犬種や、診断・治療法についてもご紹介します。
■目次
1.尾側後頭部奇形症候群(COMS)とは? 症状と原因を解説
2.尾側後頭部奇形症候群(COMS)によって現れる症状
3.どの犬種が尾側後頭部奇形症候群(COMS)になりやすい?
4.尾側後頭部奇形症候群(COMS)の診断方法
5.尾側後頭部奇形症候群(COMS)の治療法
6.尾側後頭部奇形症候群(COMS)と他の神経学的疾患との違い
7.まとめ
尾側後頭部奇形症候群(COMS)とは? 症状と原因を解説
尾側後頭部奇形症候群とは、頭蓋骨の一部である後頭骨が正常に形成されず、小脳の後方や下方への圧迫を引き起こす先天的な奇形です。この小脳の圧迫により、脳脊髄液の循環障害が生じ、結果として脊髄空洞症などの神経症状につながることがあります。
尾側後頭部奇形症候群(COMS)によって現れる症状
脳脊髄液の循環障害に伴う脊髄空洞症の進行によって、以下のような症状が見られることがあります。
・頚部痛(首や肩まわりを触られるのを嫌がる)
・側弯(背中の曲がり)
・斜頸(首が左右どちらかに傾く)
・ひっかき反射(特に首まわりをしつこく掻く動作)
なお、けいれん発作が主症状となることはまれで、多くは痛みや違和感による行動の変化が問題となります。
どの犬種が尾側後頭部奇形症候群(COMS)になりやすい?
尾側後頭部奇形症候群は、主に小型犬に多く見られ、特に以下の犬種で発症リスクが高いことが知られています。
・キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
・チワワ
・マルチーズ
これらの犬種では、水頭症やキアリ様奇形などの他の先天性疾患を併発するケースも多くあります。
水頭症についてはこちらから
尾側後頭部奇形症候群(COMS)の診断方法
まずは身体検査や神経学的検査を実施して、どの病気が疑われるかを推測します。また、他の神経学的疾患でも同様の症状が現れるので、それらを除外するために画像検査(X線検査、CT、MRIなど)を実施します。特にMRIでは、後頭骨や小脳の圧迫状態を正確に把握できます。
尾側後頭部奇形症候群(COMS)の治療法
症状の程度に応じて、まずは内科的治療(保存療法)から開始し、改善がみられない場合には外科的治療を検討します。
〈外科的治療〉
・大後頭孔拡大術
後頭骨の奇形による小脳圧迫を軽減する手術で、COMSそのものに対する治療です。
・S-Sシャント術
脊髄空洞症に対して、空洞にたまった液体を他部位へ排出し、脊髄内の圧力を下げる手術です。
尾側後頭部奇形症候群(COMS)と他の神経学的疾患との違い
尾側後頭部奇形症候群は、他の神経疾患と混同されやすいため、正確な診断が重要です。特に以下の疾患とは症状が類似していますが、病態や治療方針は異なります。
・脊髄空洞症
単独で発症することはなく、奇形や腫瘍に伴って現れます。尾側後頭部奇形症候群は脊髄空洞症の原因となることがあるため、両者が併発しているケースが非常に多いのも特徴です。
脊髄空洞症についてはこちらから
・キアリ様奇形
人間のキアリ奇形Ⅰ型に似ていることから名づけられた病気で、尾側後頭部奇形症候群と同様に後頭骨の先天的な形成異常によって起こり、脳脊髄液が貯まりすぎてしまいます。脊髄空洞症と同様に、首を引っかくような動作が見られます。
これらの病気は、神経学的検査や高度な画像診断によって正確に診断されます。尾側後頭部奇形症候群との違いを理解し、適切に診断するためには、神経疾患に精通した専門の獣医師にご相談されることをお勧めします。
まとめ
尾側後頭部奇形症候群は、小型犬に多い先天性疾患で、小脳の圧迫や脳脊髄液の流れの障害を通じて、脊髄空洞症などの二次的な神経症状を引き起こすことがある病気です。早期発見・早期治療が重要で、気になる症状があればすぐに動物病院を受診しましょう。特に、子犬のうちから定期的な健康診断を受けることで、先天性疾患の早期発見につながります。
当院では2023年9月現在、全国で17名のみが認定を受けている「日本小動物外科専門医」の資格を持つ院長を中心として、飼い主様に寄り添ったやさしい医療をご提供できるよう日々研鑽を続けております。
尾側後頭部奇形症候群のことでお困りの際は、当院へご相談ください。
■日本小動物外科専門医の資格についてはこちらをご参照ください
埼玉県三郷市・吉川市・八潮市・越谷市で神経疾患・整形疾患の診療を受けるなら
とがさき動物病院
<参考文献>
Congenital Diseases of the Craniocervical Junction in the Dog – ScienceDirect
« 前の情報を読む
次の情報を読む »
» 最新情報一覧